かてものとは?

 かてもの(糧物)とは上杉治憲(鷹山公)の命によって、奉行・莅戸善政の編集によって刊行された、当時知られていた救荒植物について解説した手引書です。上杉鷹山公とは領地返上寸前の米沢藩再生のきっかけを作り、江戸時代屈指の名君として、地元の人々に今も愛されている上杉藩第9代藩主です。


 当時、鷹山公は藩医に命じて飢饉に備え、穀物の貯蓄とともに、それを食いつなぐ目的の「かて」となるべき救荒食物、まだその当時食用としては一般的ではなかったと思われる木の葉や根を利用、また採取が比較的しやすいものを実際に試食しながら、かてもの研究がなされました。その成果として、最終的に約82項目79種の植物(草木果実)が選定され、その食べ方や処理の仕方が手引書となりました。このかてもの手引書は、各種の味噌の製造法から魚鳥獣肉の貯蔵法まで記されています。

 このかてもの手引書は享和2年1575冊発行領内に配布され、かてものの普及に努めた結果、実際に近世東北三大凶作のひとつである天保の大飢饉(1833年)に大変役立ちました。この時、他藩では多数の死者を出しましたが、米沢藩では一人の死者も出なかったと記録されています。また昭和9年の東北大凶作や戦時中の食料欠乏時に大きな役割を果たしたと伝えられています。
米沢ほど、山菜や野草(時には畑の雑草も!)を日常食として親しみ食べる地域は少ないかもしれません。


 かてものの大部分は現在の山菜図鑑に掲載されているもので、逆を言えば私が山菜として食しているのは、先人たちが身をもって安全性を試してくれた成果と思うと感謝でいっぱいになります。気候変化や疫病などで「普通」が普通でなくなっている昨今ですが、ゆっくり山里や里を眺めるとこうした自然の恵みをまだ見つけることができ、大切に扱えばこれほど持続可能な食べ物の恵みはありません。せっかく地元に生きる私たちです。こうした鷹山公の想いやかてものの知恵を訪ねて下さるゲストと共に少しでもお伝えできるよう勉強中です。
 

「かてもの」手引書(原文)

 凶年の備への事、年来御世話の下され候。末深き気遣ひは有るまじく、其の年次に当たらば猶も御手当ての事はいふまでもなく候へども、行立がたきものもあるべく、又二年三年つづきての不作も知るべからず。

 

 然らば飯料は余計にたくはふべく、麦・そば・稷・ひえの蒔き植へより、菜・大こんの干したくはへまで、年々の心遣ひはいふまでもなく、其の外もろもろの「かて物」をば其相応にまじへて食ふべき事に候。然れども其の品其の製法を知らずして生をあやまる事の御心元なく、広く御医者衆におほせて「かて物」になるべき品々其の製法までを撰ばせられ候間、民々戸々豊かなるけふより、万々一の日の心がけいたすべく候。

 

 

かてものの例(記載順に15種)※実際は82項目79種
いたどり (くきふとくは大なるをどうぐひと云ふ) 能くゆぎき麦か米かに炊き合はせて「かて物」とす。但し妊婦は食ふべからず。
いちび (実をいちびまんでうと云ふ) 実をとり生にて食ふ。干してひき粉にし餅・団子にしても食ふ。
はすの葉 ゆびき食ふ。又「かて物」とす。
はうきぎ 葉をゆびき食ふ。又「かて物」とす。
はたけしちこ (ははこぐさとも云ふ) 茎も葉も灰水にてゆで、米の粉へまじへ餅・団子にして食ふ。
はびやう ゆびき食ふ。又「かて物」とす。但し鼈とくひあはせべからず。
はしばみ 飢へを助くるもの。
ほど 根を能くよく煮て塩をくはへ食ふ。
へびあさ ゆびき食ふ。又「かて物」とす。
ところ 横に切り、能く能く煮て流水に一宿ひたせば苦味よく去る。又灰水にてよく煮、二宿ほど水にさはし「かて物」とす。但し、老人或いは病後の人、又は病人などといふほどのものは食ふべからず。附 久しく食して、もし大便つまらば白米を稀粥にして度々のむべし。泄瀉して毒消ゆ。
とうごぼう 根も葉もゆでて食ふ。又「かて物」とす。根に赤きあり。黄なるあり。白きあり。白きを食ふべし。うすくへぎながれに二宿ひたし、大豆の葉を甑にし段々へだめに入れて蒸す事六時ばかりにして食ふ。まめの葉なくば大豆を用ひてよし。又灰水にてよく煮度々水をかへ、二三宿浸し、さはしたるもよし。
どほな 嫩葉をゆびき食ふ。又「かて物」とす。
どろぶ わか葉をあく水にゆで、水をかへゆびきさはして「かて物」とす。
とちの実 水をかへ煮る事十四、五度し、むして食ふ。ながれに一宿ひたせば一度煮てもよし。又日に干し火棚にあげ置き、干あがりたる時あつき湯へ入れとりあげ、物を以て打ちて皮を去り、ながれにひたす事二、三日してとりあげ、灰をまびりねせ置く事又二、三日し、実を割り中に白き色なく、みな黄色に成りたる時灰気を洗いさり、糯米にまじへて餅とし、のし置きあぶりて食ふ。又「かて物」とす。
ぢたぐり (ぢんだぐりとも云ふ) 水をかへて煮る事十四、五度し、よくむして食ふ。ながれに一宿ひたせば一度煮てもよし。又「かて物」とす。

魚鳥獣肉の心がけ

 凶年ならぬだに魚鳥毛ものの肉を食はねば生を養ふの助け少なし。況んや老ひたるものは、肉にあらざれば養ひがたし。殊に凶年穀食乏しきをや。かかる年次によきものあたへがたきはいふまでもなし。責めては塩いはし・ほしこ・にしんなどの類、まれまれにもあたゆる心づかひも其の世話の一つなるべし。野猪の肉を厚さ二、三寸、長さ六、七寸に切り、蒸籠にてむしたるを取り上げ、灰をぬり縄にてあみ、火にほしかため火棚か梁のうへかなどにつるしをけば、数十年を経て変はらず。

 

 用ひる時は、あくを洗ひおとし、小刀にてけづり用ひるに、鰹節におとらずといふ。但し能くよくむして脂を去らざれば、虫ばみて永く囲ひがたし。よくよくむすべし。然らば野猪ばかりにも限るべからず。何毛ものの肉も同じなるべければ、是等の心がけも亦其の心懸けの一なるべし。又、田螺もからを去り、ゆでてほし囲へば、幾年を経てもむしばまずと云ふ。魚鳥毛もののあぶら、尤も以て衰たる腹を養ふべし。是も亦心得の一つなるべし。  右は今の豊かなる日に能く能く心得させよとの御事に候条、油断すべからざるもの也。

「かてもの」記載の植物

手引書「かてもの」記載植物の記載名・和名・科名

 

No. 記載名 和名 科名 No. 記載名 和名 科名
いたどり   イタドリ
〔どうぐひ〕 オオイタドリ
タデ科 42 のぎく ノコンギク・カントウヨメナ他 キク科

43 ぐじな タンポポ キク科
いちび イチビ アオイ科 44 くはんそう ノカンゾウ・ヤブカンゾウ他 ユリ科
はすの葉 ハスの葉 ハス科 45 くぞの葉 クズの葉 マメ科
はうきゞ ホウキギ アカザ科 46 くずの根 クズの根
はたけしちこ ハハコグサ キク科 47 やちふき サワオグルマ キク科
はびやう イヌビユ ヒユ科 48 やまごぼう オヤマボクチ キク科
はしばみ ツノハシバミ カバノキ科 49 やまうつぎの葉 タニウツギの葉 スイカズラ科
ほど ホド マメ科 50 またゞびの葉 マタタビの葉 マタタビ科
へびあさ ハンゴンソウ キク科 51 まめ ダイズ マメ科
10 ところ オニドコロ ヤマノイモ科 52 まゆみの葉 マユミの葉 ニシキギ葉
11 とうごぼう ヤマゴボウ ヤマゴボウ科 53 ふき フキ キク科
12 どほな イヌドウナ キク科 54 ぶなの木の葉 ブナノキの葉 ブナ科
13 どろぶ ドロノキ ヤナギ科 55 ふじの葉 フジの葉 マメ科
14 とちの実 トチノキの実 トチノキ科 56 ごんがらび イケマ・ガガイモ ガガイモ科
15 ぢだぐり クヌギ ブナ科 57 こうくわ ベニバナ キク科
16 をけら オケラ キク科 58 こうずの葉 ヒメコウゾの葉 クワ科
17 をゝづちは オトコエシ オミナエシ科 59 こくさぎ コクサギ ミカン科
18 わらび ワラビ ワラビ科 60 あかざ シロザ・アカザ アカザ科
19 わらびの粉 ワラビの粉 61 あさづき アサツキ ユリ科
20 からすうり (キ)カラスウリ ウリ科 62 あづきの葉 アズキの葉 マメ科
21 からすうりの根 〃の根 63 あざみ ナンブアザミ キク科
22 かたゝご カタクリ ユリ科 64 あめふりばな ヒルガオ ヒルガオ科
23 かやのみ カヤの実
ハイイヌガヤの実
イチイ科
イヌガヤ科
65 あさしらげ ハコベ ナデシコ科
24 がば ガマ ガマ科 66 あいこ ミヤマイラクサ イラクサ科
25 からすのや タウコギ キク科 67 さゝぎの葉 ササゲの葉
[十六さゝぎ、いうきうさゝぎ]
マメ科
26 かはらちや カワラケツメイ ジャケツイバラ 68 さわあざみ サワアザミ キク科
27 かわほね コウホネ スイレン科 69 さいかちの葉 サイカチの葉 マメ科
28 かはらしちこ カワラホウコ キク科 70 さるなめしの葉 リョウブの葉 リョウブ科
29 かやな コウゾリナ キク科 71 ぎしぎし ギシギシ タデ科
30 がつき マコモ イネ科 72 ゆり ヤマユリ・オニユリ他 ユリ科
31 よしびこ ヨシ イネ科 73 めなもみ メナモミ キク科
32 よもきの葉 ヨモギの葉 キク科 74 みつはせり ミツバ セリ科
33 たびらこ タネツケバナ アブラナ科 75 しやぜんそう オオバコ オオバコ科
34 つゆくさ ツユクサ ツユクサ科 76 しだみ コナラ・ミズナラ ブナ科
35 うばのち ウツボグサ シソ科 77 ゑごな ヒメザゼンソウ サトイモ科
36 うるゐ
オオバキボウシ・
トウギボウシ
ユリ科 78 ゑんじゆの葉 イヌエンジュ マメ科
37 うしひる (ギョウジャニンニク)(ツルボ) ユリ科) 79 ぜんまい ゼンマイ ゼンマイ科
38 うしひたい ミゾソバ タデ科 80 すぎな スギナ トクサ科
39 のにんじん シャク セリ科 81 すめりひやう スベリヒユ スベリヒユ科
40 のゝひる ノビル ユリ科 82 すひかづら スイカズラ スイカズラ科
41 のこぎりは ワレモコウ・ナガホノシロワレモコウ バラ科    

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*かてものをたずねて(歴史春秋社出版) 高垣順子氏より一部改変